タイの投資恩典制度変更の概要

02.27

既に報道等でご存じの方も多いかと思いますが、タイの投資恩典制度が2015年1月から大幅に変更になりました。本稿では、同制度が改正されるに至った背景と主な変更点等について、タイ国投資委員会(BOI)の発表を元にご説明します。

<改正の背景>

タイは、1985年のプラザ合意以降に急激に進んだ円高を背景として日本企業が多く進出を始め、その後も1997年のアジア通貨危機や2011年のリーマン・ショックなどを経ながらも、この約30年間、海外からの投資を原動力として成長を遂げてきました。この政策の実現に大きく貢献してきたのが仏暦2520年(西暦1977年)投資奨励法と、同法によって恩典付与の権限を与えられたBOIの存在でした。この投資奨励法は2001年に改正されて以降、昨年までの約13年間、「地方振興」の観点に基づき、首都バンコクから遠い地域に立地するほど恩典が大きくなる「ゾーン制」の仕組みを根幹として、業種ごとに恩典を付与する形で、多くの外国企業に対して法人事業税の減免を含む恩典を付与してきました。

このようにして順調に発展を続けてきたタイですが、外資に頼って成長を続ける途上国には、いわゆる「中進国の罠」(Middle Income Trap)と呼ばれる成長の限界が訪れます。「中進国の罠」とは、簡単に説明すると、簡単に国が発展すればするほど労働賃金は高くなり、投資先国としての魅力が薄れ、外国投資が頭打ちになるという現象です。この「罠」を打ち破ってその国がさらなる発展を遂げるためには、企業が高い労働賃金であってもそれに見合うだけの洗練された労働力を供給できるための高度人材の育成と、研究開発や最先端技術を用いた製造事業など、高い付加価値を産み出すことの出来る事業の誘致が鍵となってきます。

さらにタイを取り巻く周辺環境を見てみると、本年2015年末にはASEAN経済共同体(AEC)が創設される予定であり、ASEAN域内における関税撤廃を中心に、域内の国境間の垣根が低くなることによって、低所得国からの製品流入による市場競争の激化が予測されます。このため、タイとしてはより高付加価値型の産業を自国に誘致することで、低付加価値型の産業から高付加価値型の産業へ構造転換を図る必要があったわけです。

こうした背景から、タイはこれまでの地域振興を軸とした恩典体制を大幅に改め、国家の競争力向上に資する産業に特化した形の恩典体制に変更することを2014年も押し迫った12月に発表し、2015年1月以降の申請案件から適用を開始しました。

<変更の概要>

以上の原則に基づき、大枠としては、国家の競争力向上や持続的な発展に寄与する事業に対しては最大8年間の法人事業税の免除など手厚い恩典を付与する一方で、そうではない従来型の単純なアセンブリや労働集約型の産業に対しては、限定された恩典を付与するにとどまるまたは恩典対象から除外するという変更を行ないました。本稿では、個別の業種に関しては言及しませんが、新恩典制度に基づいた奨励業種のリストは、BOIのウェブサイト( http://www.boi.go.th/ )に日本語訳も掲載されており、ご確認いただくことができます。

なお、この政策に明示されていないものの重要な論点として、既に恩典を受けている事業の拡張投資の場合に新恩典制度が適用となるかどうかという点がありますが、この点については「既存取得恩典分の30%分までであれば旧制度適用が可能」とされており、これを超える分については新制度での判断になる模様です。

<現在の論点と今後の方向性>

今回の改正では、上記のとおり対象業種が変更になったほか、恩典を付与する際の条件についてもいくつか変更がありました。そのうちのひとつに「中古機械の使用制限」に関する変更点があります。これまで、BOIは恩典付与の条件として「新品の機械設備を利用すること。ただし製造から10年以内であれば能力証明を取得すれば可」としていました。ところが今回の改正では、高付加価値型の産業を誘致したいという思惑から、これを「製造から5年以内」(プレス機は従来通り10年以内)と変更しています。

 

この改正は多くの日系企業の現状から見て非常に厳しく、恩典を取得できるプロジェクトが著しく減少する可能性があるとして、盤谷日本人商工会議所(JCC)やジェトロなどが中心となり、タイ政府に対して再検討を申し入れていたところです。タイ側もこれに一定の理解を示して、現在、再改正に向けて動き出しており、最新の情報によれば4月上旬ごろに再改正が発表される見通しとなっています。

 

<これからタイ進出をお考えの方へ>

以上、タイの新投資恩典制度の概略を簡単にご説明しましたが、タイに事業進出する場合には、この投資恩典制度以外にも知っておかなければいけない制度がいくつかあります。機会があればまた別稿でご紹介しますが、事業展開をご検討される方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

中小企業診断士 石毛寛人 (MPAメンバー)

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